第5章 久保猪之吉



【泌尿器科教室旧蔵久保本】

 医学部泌尿器科教室 初代教授 高木繁が、市場に出た久保猪之吉(1874~1939)旧蔵の和漢古医書を蒐集したコレクション。
 久保猪之吉(1874~1939)は、九州帝国大学の前身である京都帝国大学福岡医科大学の初代耳鼻咽喉科教授を務めた人物である。日本で初めて気管支鏡下異物摘出を行ったことで世界にその名が知れ渡り、九大の「イノ・クボ」のもとで学ぼうと、世界中から留学生が集まった。久保は医学者だけでなく、妻のより江夫人とともに歌人・俳人として、また蔵書家としても著名である。馬出キャンパスには博士の名を冠した博物館「久保記念館」および「久保猪之吉博士像」、「久保通り」および「歌碑」がある。
 彼の蔵書には特徴的なデザインの「クボ」というカタカナの蔵書印が押印されており、蔵書印の句も残している。

9. 大同医式

「大同医式」[書写者不明]、[書写年不明]
九州大学医学図書館所蔵 (和漢古医書/タ-20) 【 精細画像

大同医式

 平城天皇の治世に、桓武天皇の遺命によりわが国に残る薬方をまとめた『大同類聚方』が編纂された。その施行細則・実務規定を記した細則が『大同医式』である。江戸時代に国学の台頭に伴って和方医学が興隆すると、当時発見された『大同類聚方』は日本最古の医学書とみなされるようになったが、今日では現存の写本は全て偽書だというのが通説となっている。



10. 食品國歌

大津賀仲安「食品国歌」2巻、[出版者不明]、天明7 [1787]
九州大学医学図書館所蔵 (和漢古医書/シ-512)【 精細画像

食品國歌

 『食品国歌』は、食品に関する留意すべき点を五・七・五・七・七の和歌形式、すなわち「国歌(やまとうた)」の形式で表す。例えば「水部」(みづのぶ)として

 「井泉水は新吸なるを用ゆべし泥土あるは実食ふべからず
 白湯こそは百沸たるに能ありて半熟なるは害ぞ有べし
 食塩はよく心腎肌骨養へど消渇の人あしきとぞ知れ」

と記されている。



11. 久保教授寫眞帖

「久保教授寫眞帖」, 九州帝國大學醫學部耳鼻咽喉科教室内四三會發起人一同, 1934
九州大学医学図書館所蔵 (写真帖/久保猪之吉/1934)【 書誌情報

久保教授寫眞帖

 久保猪之吉教授の還暦、退職を記念し、写真集が作られた。医学図書館所蔵の写真帖は、久保から看護婦長の吉田トメへの献呈されたもので、自筆の挨拶文や俳句の添え書きが残されている。




参考資料

九州大学附属図書館, 世界のイノ・クボと文学サロン 久保猪之吉

ミヒェル・ヴォルフガング.器物と文物の宝庫 : 世界の誇る久保記念館. 四三会誌, 84, p.26-44.

都築 繁利.『大同類聚方』に見る桓武天皇の意志と上代の医療状況. 日本経大論集, 2018, 48(1), p51-63.

ミヒェル・ヴォルフガング.江戸の健康志向. 東西の古医書に見られる病と治療-附属図書館の貴重書コレクションより


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