著者のフェルディナント・フォン・ヘブラ（1816～1880）はオーストリアの医師、ウィーン大学皮膚科学教授で、近代皮膚科学の祖とされる。
　この資料はテキストと図版が10回に分けて刊行され、図版は白黒の線描画と彩色リトグラフの二種類である。九大所蔵分は彩色リトグラフのみであるが、全104枚が揃っている。

　ヘンリー・ラドクリフ・クローカア（1845-1909）はイギリス、ロンドンのUniversity College Hospitalの医師であり、臨床および教育面で皮膚科学の発展に貢献した人物である。当時のイギリスにおいて主要な教本であった「皮膚の疾患（Diseases of the Skin, 1888-1903）」と、本資料を執筆した。

　著者の土肥慶蔵（1866～1931）は東京大学皮膚科教授であり、日本の近代皮膚科学の祖とされる。ドイツ、オーストリア、フランスに留学し、皮膚科と同時に泌尿器科も学んだ。彼は医療教育や傷病の記録に使用されたムラージュ（蝋細工の模型）の技術を伝えた。
　この資料は、土肥の症例を伊藤有がスケッチした原図を元に作られており、「ヘブラ氏皮膚病図譜」と同様に説明文と彩色石版図譜が10秩に分けて刊行された。九大所蔵分は一部欠落しているページがあるものの、テキスト・図版どちらも残っている。
　日本で刊行された初めての本格的な皮膚病図譜であり、この図譜により日本固有の皮膚科学が樹立した。また、精密な図からは明治初期の風俗も見てとることができる。

　本書は、19世紀後半に活躍した一流の皮膚科医たちが、国を越えて協力した皮膚科学史上の傑出した例である。このアトラスには、皮膚科領域における珍しい症例が数多く記載されている。

　著者のイシドール・ノイマン（1832～1906）はウィーン大学皮膚科学・梅毒学の教授だった。皮膚病の顕微鏡解剖を最初に手がけた一人で、真菌学の研究にも力を注いだ。帝国政府の顧問として、医学生の試験科目として皮膚科学を導入した。