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第二部 文人・大田南畝(おおたなんぽ)
江戸時代の文人の代表格といえるのが、蜀山人こと大田南畝(1749~1823)だ。昨年(2023年)はその没後二百年のメモリアル・イヤーで、東京でかなり大規模な展示会やシンポジウムが行われた。南畝はもともと、幕府直属の下級武士であった。しかしたいへんな文才があって、漢詩・和歌といった雅(古典的)文芸についての確かな教養をベースとしつつ、狂詩・狂歌・戯作・随筆といった俗(当代的)文芸の世界で名を馳せた。雅俗融和を江戸文化の精髄と考える中野氏が、最も慕っていた人物と言ってもよかろう。
2-1. 三十六人狂歌選(さんじゅうろくにんきょうかせん)
大田南畝編、丹丘画
縦 26.5 × 横 17.9cm 1巻1冊 天明6年(1786)刊
九州大学中央図書館所蔵(国文/26v/17)
四方赤良(大田南畝)をはじめ、尻焼猿人(酒井抱一)・唐衣橘洲・朱楽菅江など、当代に活躍する36人の狂歌師の狂歌を、その肖像とともに描いたもの。和歌における『三十六人歌仙絵』のパロディ。巻末に第2〜4編までの刊行予告があるが、じっさいには本書のみ刊行された。展示品は南畝旧蔵本で、野崎左文・岡野知十・宮川曼魚などの近代の蔵書家の手を経て九州大学に入ったもの(非・雅俗文庫所蔵)。展示箇所は片膝を抱いてうつぶした四方赤良。(川平)
《参考文献》浜田義一郎ほか編『大田南畝全集』第1巻(岩波書店、1985年)
2-2. 杏園詩集 続編(きょうえんししゅう ぞくへん)
大田南畝著
縦 16.1 × 横 11.2cm 1巻1冊 文政4年(1821)刊
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/詩文c/キヨ)
文化8年(1811)・李顕相(太華)序。顕相は朝鮮通信使制述官。本書は南畝の漢詩を集めたもので、内題に「杏園詩集巻三」とある。正編(巻1、2)はそれなりに残存するも、続編(巻3)はきわめて稀少である。雅俗にわたる南畝の文業のうち、本領である雅の側面が分かるもの。なお雅俗文庫には、近世後期写本の『杏園集』(1巻1冊)および『杏園詩集』(3巻1冊)も存するが、内容は出展本と相違する。(川平)
《参考文献》浜田義一郎ほか編『大田南畝全集』第6巻(岩波書店、1985年)
2-3. 南畝七律 読安土記(なんぽしちりつ どくあづちき)
大田南畝筆(自筆)
縦 117.7 × 横 33.3cm 1幅(紙本) 天明5年(1785)頃成
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/掛軸類a/ナン)
大田南畝が、太田牛一著『安土記』(『信長公記』)を読んで詠じた漢詩(七言律詩)。本作は『杏園詩集 続編』(出展番号2-2)に、「詠野史 安土記」として収まる。また『南畝集』6(『大田南畝全集』第3巻所収)によれば、天明5年の作。歴史について自分の思いを詠じる、いわゆる詠史の作品。落款は「南畝大田覃 印「大田/覃印」 印「大田/子耜」。(川平)(川平)
《参考文献》浜田義一郎ほか編『大田南畝全集』第3巻(岩波書店、1986年)
2-4. 南畝七絶 題酔李白図(なんぽしちぜつ だいすいりはくず)
大田南畝筆(自筆)
縦 29.4 × 横 17.3cm 1枚(絹本) 文化5年(1808)頃成・写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/絵画z/シヨ)
名家の書画・扇面など64点を貼り込んだ『書画貼雑帖』(1帖)のうち。本品は、「題酔李白図(酔李白図に題す)」とし、伝統的な画題である「酔李白」(酔っぱらった李白)の図を見て詠んだ七言律詩。『南畝集』16(『大田南畝全集』第5巻所収)によれば、文化5年の作(「題李謫仙図」)。「謫仙」は仙人の意で、非凡な詩人の美称。南畝はこのほかにも何度か「酔李白図」を詠んだ漢詩がある。展示箇所の左側は山東京伝の書画。(川平)
《参考文献》中野三敏他編『西日本未刊善本展』(九州大学国語国文研究室、1985年)、浜田義一郎ほか編『大田南畝全集』第5巻(岩波書店、1987年)
2-5. 大田七左衛門(南畝)書簡(おおたしちざえもん しょかん)
大田南畝著(自筆)
縦 16.3 × 横 47.2cm 1枚 享和2年(1802)迄成・写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/書簡a/1-128)
漉き返し紙使用。右端に「牛門旧社諸君(几下) 大田覃(拝啓)」と見える。「牛門」とは江戸の地名牛込のこと。鈴木岩次郎(白藤)以下5名の宛名が連なっている。宛名のうち、山内尚助(穆亭)は享和2年9月13日に没しているので、本書簡はそれ以前の成立。内容は、『杏園詩集』正篇の出版にあたり、購入をお願いしたもの。ただし正篇の出版ははるか後年、文政3年(1820)まで下る。(川平)
《参考文献》浜田義一郎ほか編『大田南畝全集』第19巻(岩波書店、1985年)
2-6. 美人絵(びじんえ)
大田南畝・鹿都部真顔賛、祇園井特画(各自筆)
縦 90.2 × 横 33.1cm 1幅(絹本) 近世後期成・写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/掛軸類a/ビジ)
四方山人(大田南畝)の漢詩賛、四方(鹿都部)真顔の狂歌賛、祇園(祇山)井特の画。南畝の賛は、「半分は笹色、半分は臙脂黒に差した口紅。両鬢の簪は光り、玳瑁(べっこう)の櫛は艶やかな黄色」の意。画かれた女性の下唇に差された笹色(緑色)は、このころ流行した口紅の色。(川平)
2-7. 宛丘伝(えんきゅうでん)
大田南畝著
縦 24.4 × 横 17.0cm 1巻1冊 寛政11年(1799)序、近世後期写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/随筆d/エン)
共紙表紙。薬種屋長兵衛の伝記を、5つの文体、すなわち「書上文の体」「俗文の体」「漢学者の文体」「和学者の文体」「当時雅俗ともに通ずべき体」で書き分けたもの。和漢硬軟、変幻自在の南畝の文章力がうかがえる。近代初期の戯作者・仮名垣魯文の旧蔵(「かながきぶんこ」)。朱による訂正も多い。(川平)
《参考文献》『蜀山人全集』巻2(吉川弘文館、1907年)
2-8. 奴師労之(やっこだこ)
大田南畝著
縦 26.9 × 横 18.9cm 1巻1冊 文化15年(1818)序、近世後期写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/随筆d/ヤツ)
南畝の随筆。当時の風俗・文壇の状況がわかる記事が多い。近世後期江戸の古籍商・待賈堂主人(達磨屋五一)の奥書あり、南畝の草稿が弟子の文宝堂から自分の手に入ったこと、ある人に与えることになったが、自分用に控え本を作ったことなど記す。展示箇所は、書名の由来になった奴凧(遊具)のことを述べた部分。(川平)
《参考文献》浜田義一郎ほか編『大田南畝全集』第10巻(岩波書店、1986年)
2-9. 東風詩草(とうふうしそう)
大田南畝編、三村竹清写
縦 20.0 × 横 13.8cm 1巻1冊 天明8年(1788)序、近代初期写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/詩文b/トウ)
南畝の友人30人が、江戸の地名を詠んだ漢詩を集めたもの。巻末に、近代初期の考証家・三村竹清による奥書および詠者の略伝を付している。竹清から薫陶をうけ、晩年はその世話をしたという蔵書家・練木準の所蔵本を写したもの。展示箇所の左側は、浄土僧・耆山が龍の口(江戸城和田倉御門の東)を詠んだ漢詩。(川平)
《参考文献》浜田義一郎ほか編『大田南畝全集』第6巻(岩波書店、1988年)、中野三敏『師恩』(岩波書店、2016年)
2-10. 会計私記(かいけいしき)
大田南畝著
縦 27.5 × 横 15.6cm 1巻1冊 寛政9年(1797)頃成、昭和17年(1942)写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/随筆d/カイ)
寛政8年11月1日~同9年6月14日までの、南畝の幕臣としての勤務日誌。近代前期における南畝研究の第一人者・浜田義一郎が、近世歌謡研究家・忍頂寺務所蔵本を人に筆写させたもの。浜田が研究のために書き込んだ情報カードも付属している。展示箇所は、南畝が支配勘定に任ぜられたときの記録。ちなみに書名の「会計」とは、勘定所のこと。(川平)
《参考文献》浜田義一郎「大田南畝の『会計私記』」(『書物展望』13-7、1943年)、浜田義一郎ほか編『大田南畝全集』第17巻(岩波書店、1988年)
2-11. 御影参牛講釈(おかげまいりうしこうしゃく)
川隣山人著
縦 22.4 × 横 15.5cm 1巻1冊 明和8年(1779)刊
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/小説/オカ)
南畝旧蔵本。明和8年に約200万人が移動したという、伊勢神宮への「おかげ参り」を題材とした談義本。人間にまじって参詣しようとする猫と犬が、各々の出自の優劣について口論するのを、牛が間に入って仲裁するという趣向。巻頭に「南畝文庫」の印がある。その他の蔵書印をたどると、その後、関根只誠・斎藤雀志・大野洒竹・林若樹といった、近代初期の名だたる蔵書家の手を経て、中野氏の手に入ったことが知られる。(川平)
解説文執筆者一覧
川平 敏文 九州大学大学院人文科学研究院教授
陳 笑薇 九州大学大学院人文科学府専門研究員
王 自強 九州大学大学院人文科学府博士後期課程三年
賈 思敏 九州大学大学院人文科学府博士後期課程一年
野尻 萌果 九州大学大学院人文科学府修士課程二年
このページは、第61回九州大学附属図書館貴重文物展示「続・雅俗繚乱 ―江戸の秘本・珍本・自筆本―」(会期:令和6年5月10日~6月29日)を電子展示として再構築したものです。展示にあたりましては、監修者として川平敏文教授(九州大学大学院人文科学研究院)に多大なるご協力をいただきました。また、九州大学デジタル資料整備事業による皆様からのご寄付を経費に充てさせていただきました。心よりお礼を申し上げます。
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