続・雅俗繚乱 ―江戸の秘本・珍本・自筆本―

続・雅俗繚乱 ―江戸の秘本・珍本・自筆本―


 九州大学附属図書館では伊都キャンパスのフジイギャラリーで貴重文物展示「続・雅俗繚乱 ―江戸の秘本・珍本・自筆本―」(会期:令和6年5月10日~6月29日)を開催中です。あわせて本ページで展示資料をピックアップして紹介していきます。展示の会期終了まで定期的に更新していきますので、どうぞお楽しみください。

2024.05.23 展示資料のピックアップ紹介を更新しました。

はじめに

 九州大学附属図書館に所蔵される雅俗文庫は、文化勲章受章者で本学名誉教授の中野三敏氏(1935~2019)が長年収集してこられた、江戸時代の書籍を中心としたコレクションである。

 平成21年度(2009) から令和元年度(2019)までのあいだに、江戸期を中心とする和装本・約8300点(約15000冊)、近代以降の洋装本・約5300点(約7100冊)が段階的に受け入れられた。九州大学の国文学系コレクションのなかでも随一の規模を誇る。

 雅俗文庫の和装本については、受け入れ直後の平成22年(2010)から、当方と人文科学府の大学院生が中心となって、目録作成のための調査を開始した。途中、中間報告的なものとして、平成27年(2015)5月に、一度目の展覧会を開催した(第56回附属図書館貴重文物展示「雅俗繚乱―中野三敏江戸学コレクションの世界―」)。このときは、旧蔵者の中野氏による記念講演・座談会等も行い、たいへん盛況であった。

 目録作成のための調査はその後、新型コロナウィルス感染症の影響で、一年間ほど中止を余儀なくされた期間もあったが、令和4年(2022)3月にようやく完了した。足掛け12年。その間、令和元年(2019)11月27日には、中野氏のご逝去という悲報にも接したが、何とかやり遂げられたので、氏のご芳志に少しは報いることができたのではないかと考えている。

 そこでこの度、この調査完了を記念して、二度目の展覧会を開催する運びとなった。題して「続・雅俗繚乱―江戸の秘本・珍本・自筆本―」。前回の展示会は、漢詩文や狂歌、法帖や読本といった「ジャンル」で切り取ったものであったが、今回はより稀少価値の高い自筆本や、マニアックな珍本・秘本(春本もふくむ)、あるいは視覚的に美しい多色刷などを選び、一般の方にも専門の方にも、楽しんでもらえる構成とした。

 江戸文化の大通りから路地裏まで、中野氏がぶらぶら散歩した跡をたどってみることにしよう。

令和六年五月吉日

九州大学大学院人文科学研究院教授
川平 敏文

第一部 多色刷りの世界

 江戸時代は出版技術が発達した時代だ。はじめは墨一色の木版であったが、次第に2色以上を重ねて刷る技法も行われるようになった。1600年代の中国では、すでに高度な多色刷の技術が確立しており、色彩豊かな詩箋や画譜が流布していた。その影響を受けて、日本でも多色刷が発達し、浮世絵などの通俗的な絵画にまで、その技術が適用されたのである。動植物のような自然界の生きもの、遊女や歌舞伎役者のような華やかないでたちの人物は、多色刷によってこそ、リアルに現前する。

上方摺物貼込帖(かみがたすりものはりこみじょう)

上方摺物貼込帖
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丹羽桃渓画
縦 28.3 × 横 20.9cm 1帖(折本) 近世後期刊
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/絵画a/カミ)


 多色刷の技法を使った俳諧の一枚刷。一枚刷とは、一枚の紙に印刷された刷物である。はじめは2、3色の素朴な色刷であったが、明和(1764~1772)以降多色刷の華美なものとなり、この後急速に流行するようになる。江戸・上方のものが圧倒的に多いが、地方にも広く普及した。展示品は上方の刷物14種を画帖大に切って貼り込んだもの。展示箇所には色鮮やかな紅葉および、都南という女性の父を追善する文章・発句が見られる。(陳)

《参考文献》『江戸文学』(第25号、特集「多色摺の歴史と俳諧一枚摺」、ぺりかん社、2002年6月)


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青楼美人合姿鏡(せいろうびじんあわせすがたかがみ)

青楼美人合姿鏡
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勝川春章・北尾重政画
縦 28.0 × 横 18.7cm 1巻1冊 安永5年(1776)刊
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/絵画b/セイ)


 新吉原の遊女たちの姿を描いた多色刷木版画。後半は四季の部立てで遊女たちの発句をおさめている。彫板の技術と贅の限りを尽くしたといってもよい豪華な絵本である。蔦屋重三郎版。初代蔦屋重三郎は、安永(1772~1781)から寛政(1789~1801)にかけて、当時の俗文化を代表する出版物を刊行した版元。彼は吉原ゆかりの草紙を刊行して、吉原の文化的側面を華麗に演出する。黄表紙・洒落本・錦絵など、数多くの名作を出版している。(陳)

《参考文献》鈴木俊幸『新版 蔦屋重三郎』(平凡社、2012年)


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第一部 多色刷りの世界 展示リスト

  • 『詩文』 林鳳岡(自筆)  1軸  近世前期写  雅俗文庫/詩文a/シブ
  • 『上方摺物貼込帖』 丹羽桃渓画  1帖(折本)  近世後期刊  雅俗文庫/絵画a/カミ
  • 『十竹斎画譜』 胡正言撰  13巻13冊  天保12年(1841)刊か  雅俗文庫/絵画a/ジツ-1~13
  • 『肘下選蠕』 森春渓画  1帖(折本)  近世後期刊  雅俗文庫/絵画a/チユ
  • 『文麗画選』 加藤文麗ほか画  3巻3冊  安永8年(1779)刊  雅俗文庫/絵画a/ブン-1~3
  • 『建氏画苑』 建部綾足画  2巻1冊  明和7年(1770)序・刊  雅俗文庫/絵画a/ケン 
  • 『青楼美人合姿鏡』 勝川春章・北尾重政画  1巻1冊  安永5年(1776)刊  雅俗文庫/絵画b/セイ
  • 『風流十二月』 石川豊雅画  1軸  近世中期刊  雅俗文庫/掛軸類a/フウ
  • 『海の幸』 石寿観秀国編・勝間龍水画  1巻1冊  宝暦12年(1762)序・刊  雅俗文庫/俳諧a/ウミ
  • 『山の幸』 石寿観秀国編・勝間龍水画  1巻1冊  明和2年(1765)刊  雅俗文庫/俳諧a/ヤマ
  • 『絵本時世粧』 歌川豊国撰、式亭三馬閲  1巻1冊  享和2年(1802)刊  雅俗文庫/絵画b/エホ
  • 『東都勝景一覧』 葛飾北斎画  2巻2冊  寛政12年(1800)刊  雅俗文庫/絵画b/トウ
  • 『新吉原仮宅便覧』 梅素亭玄魚画  1舗  安政2年(1855)刊か  雅俗文庫/絵画z/シン

第二部 文人・大田南畝(おおたなんぽ)

 江戸時代の文人の代表格といえるのが、蜀山人こと大田南畝(1749~1823)だ。昨年(2023年)はその没後二百年のメモリアル・イヤーで、東京でかなり大規模な展示会やシンポジウムが行われた。南畝はもともと、幕府直属の下級武士であった。しかしたいへんな文才があって、漢詩・和歌といった雅(古典的)文芸についての確かな教養をベースとしつつ、狂詩・狂歌・戯作・随筆といった俗(当代的)文芸の世界で名を馳せた。雅俗融和を江戸文化の精髄と考える中野氏が、最も慕っていた人物と言ってもよかろう。

三十六人狂歌選(さんじゅうろくにんきょうかせん)

三十六人狂歌選
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大田南畝編、丹丘画
縦 26.5 × 横 17.9cm 1巻1冊 天明6年(1786)刊
九州大学中央図書館所蔵(国文/26v/17)


 四方赤良(大田南畝)をはじめ、尻焼猿人(酒井抱一)・唐衣橘洲・朱楽菅江など、当代に活躍する36人の狂歌師の狂歌を、その肖像とともに描いたもの。和歌における『三十六人歌仙絵』のパロディ。巻末に第2〜4編までの刊行予告があるが、じっさいには本書のみ刊行された。展示品は南畝旧蔵本で、野崎左文・岡野知十・宮川曼魚などの近代の蔵書家の手を経て九州大学に入ったもの(非・雅俗文庫所蔵)。展示箇所は片膝を抱いて居眠りする四方赤良。(川平)

《参考文献》浜田義一郎ほか編『大田南畝全集』第1巻(岩波書店、1985年)


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宛丘伝(えんきゅうでん)

宛丘伝
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大田南畝著
縦 24.4 × 横 17.0cm 1巻1冊 寛政11年(1799)序、近世後期写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/随筆d/エン)


 共紙表紙。薬種屋長兵衛の伝記を、5つの文体、すなわち「書上文の体」「俗文の体」「漢学者の文体」「和学者の文体」「当時雅俗ともに通ずべき体」で書き分けたもの。和漢硬軟、変幻自在の南畝の文章力がうかがえる。近代初期の戯作者・仮名垣魯文の旧蔵(「かながきぶんこ」)。朱による訂正も多い。(川平)

《参考文献》『蜀山人全集』巻2(吉川弘文館、1907年)


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第二部 文人・大田南畝 展示リスト

  • 『三十六人狂歌選』 大田南畝編、丹丘画  1巻1冊  天明6年(1786)刊  国文/26v/17
  • 『杏園詩集 続編』 大田南畝著  1巻1冊  文政4年(1821)刊  雅俗文庫/詩文c/キヨ
  • 『南畝七律 読安土記』 大田南畝筆(自筆)  1幅(紙本)  天明5年(1785)頃成  雅俗文庫/掛軸類a/ナン
  • 『南畝七絶 題酔李白図』 大田南畝筆(自筆)  1枚(絹本)  文化5年(1808)頃成・写  雅俗文庫/絵画z/シヨ
  • 『大田七左衛門(南畝)書簡』 大田南畝著(自筆)  1枚  享和2年(1802)迄成・写  雅俗文庫/書簡a/1-128
  • 『美人絵』 大田南畝・鹿都部真顔賛、祇園井特画(各自筆)  1幅(絹本)  近世後期成・写  雅俗文庫/掛軸類a/ビジ
  • 『宛丘伝』 大田南畝著  1巻1冊  寛政11年(1799)序、近世後期写  雅俗文庫/随筆d/エン
  • 『奴師労之』 大田南畝著  1巻1冊  文化15年(1818)序、近世後期写  雅俗文庫/随筆d/ヤツ
  • 『東風詩草』 大田南畝編、三村竹清写  1巻1冊  天明8年(1788)序、近代初期写  雅俗文庫/詩文b/トウ
  • 『会計私記』 大田南畝著  1巻1冊  寛政9年(1797)頃成、昭和17年(1942)写  雅俗文庫/随筆d/カイ
  • 『御影参牛講釈』 川隣山人著  1巻1冊  明和8年(1779)刊  雅俗文庫/小説/オカ

第三部 名家の自筆資料

 中野氏の前任者として九州大学で教鞭をとった中村幸彦(1911~1998)は、「江戸のことは何でも分かる」と言ったという。日本文学史の教科書に載るような人物であっても、柿本人麻呂や紫式部の自筆物は、さすがに残っていない。しかし江戸時代の人物ならば、残っている可能性がある。大田南畝をはじめとして、上田秋成・山東京伝・酒井抱一・荻生徂徠・沢田東江といった、名だたる学者・文人たちの自筆資料が見られるのも、江戸文学の醍醐味と言えよう。

富士画賛(ふじがさん)

富士画賛
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甲賀文麗画、上田秋成賛(各自筆)
縦 33.5 × 横 45.7cm 1幅(紙本) 文化年間(1804-1818)成・写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/掛軸類a/フジ)


 本作品は、シンプルな線で描かれた富士山の輪郭の下に、秋成が賛を書き付けたもの。画賛としての和歌「庵原の清見が崎に朝はれて不士は秋こそ見るべかりけれ 七十 餘斎(花押)」は、秋成の歌文集『藤簍冊子』(享和2年〈1802〉自序、文化3年〈1806〉刊)に収録されている。画者の文麗は、晩年の秋成の肖像画を描いたことでも知られる。(王)

《参考文献》飯倉洋一「富士山図」(日本近世文学会編『上田秋成 没後二〇〇年記念』、日本近世文学会、2010年)


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加藤文麗画馬図(かとうぶんれいがばず)

加藤文麗画馬図
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加藤文麗画(自筆)
縦 94.1 × 横 29.9cm 1幅(絹本) 近世中期成・写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/掛軸類a/カト)


 本作品は、満開の桜の木の下で一頭の馬が片方の後ろ脚を蹴り上げ、後方を見つめる様子を描いている。加藤文麗は、江戸中期の幕臣・絵師であり、若き頃狩野常信・狩野周信に狩野派の画法を学び、山水・花鳥・人物画にすぐれ、本格的画技を示したが、むしろ谷文晁の最初の師として知られている。「竜虎図襖」(建仁寺開山堂方丈蔵)、「墨画雑画巻」(東京国立博物館蔵)などが有名。(王)


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第三部 名家の自筆資料 展示リスト

  • 『傾蓋集』 沢田東江著(自筆)  1巻1冊  宝暦14年(1764)成・写  雅俗文庫/詩文b/ケイ
  • 『池大雅和歌巻』 池大雅詠、冷泉為村批点(各自筆)  1軸  近世中期成・写  雅俗文庫/歌書a/イケ
  • 『富士画賛』 甲賀文麗画、上田秋成賛(各自筆)  1幅(紙本) 文化年間(1804-1818)成・写  雅俗文庫/掛軸類a/フジ
  • 『鬼之図』 山東京伝画、酒井抱一賛(各自筆)  1幅(絹本)  近世後期成・写  雅俗文庫/掛軸類a/オニ
  • 『加藤文麗画馬図』 加藤文麗画(自筆)  1幅(絹本)  近世中期成・写  雅俗文庫/掛軸類a/カト
  • 『培斎先生遺稿抄』 林檉宇著、古賀侗庵評(各自筆)  2巻2冊  近世後期成・写  雅俗文庫/詩文c/バイ
  • 『くちあそひ』 本間游清著(自筆)  1巻1冊  近世後期成・写  雅俗文庫/歌書a/クチ
  • 『異本名家略伝』 山崎美成著(自筆)  3巻3冊  近世後期成・写  雅俗文庫/伝記a/イホ
  • 『誹諧之秘記』 松木淡々(自筆)  1巻1冊  寛保3年(1743)成・写  雅俗文庫/俳諧a/タン
  • 『雪渓堂珍蔵 大潮宛詩文集』 荻生徂徠、服部南郭ほか著(各自筆)  4軸  近世中期成・写  雅俗文庫/掛軸類a/セツ
  • 『加藤千蔭書画幅』 餘霞亭軍画、加藤千蔭賛(各自筆)  1幅(紙本)  近世後期成・写  雅俗文庫/掛軸類a/カト

第四部 春本の雅俗

 春画とは、江戸のポルノグラフィであるが、それが冊子体となったものが春本である。むろん江戸時代の人々のみが、こういったものを好んでいたのではない。「性」というものは、古今東西の老若男女に共通する関心事である。ただし、その「行為」を露骨に描くものもあれば、ある意味、医学的な見地から描くもの、漢文体の小説として(一見)格調高く描くもの、解説文だけを集めてあえて春画を抜いたものなど、変り種も多い。中野氏が集めたのは、どちらかと言えば、そういった変化球的な春本であった。

素女妙論(そじょみょうろん)

素女妙論
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編者未詳
縦 24.2 × 横 16.5cm 1巻1冊 嘉靖45年(1566)〈推定〉序、明治時代写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/近代a/ソジ)

 中国・明代に刊行されたとみられる房中書(性交の秘儀などを記した本)。現在は写本として、日本に伝存するのみ。『素女妙論』には嘉靖15年刊本系と同45年序刊本系とが存在するが、本書は後者のうち、現存が確認できる唯一の写本という。外題には「神仙活談録」とある。(川平)

《参考文献》永塚憲治「新出の『素女妙論』写本二種について」(『日本歯科医史学会会誌』30-2、2013年)、同「九州大學付属圖書館雅俗文庫所藏『素女妙論』― その翻字と校合―」(『医譚』第100号、2014年)


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華月帖(かげつじょう)

華月帖
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亀齢軒斗遠編
縦 27.5 × 横 16.0cm 1帖(折本) 天保7年(1836)刊
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/春本a/カゲ)


 影絵のみの春画帖。賀茂長命(じつは賀茂季鷹)序。豊後竹田出身の花道家・文人であった斗遠が、京都の友人・賀茂季鷹を語らって、狩野永岳・円山応震・土佐光文・岸岱・岡本豊彦ら、当時の名だたる京都の絵師たちに描いてもらったもの。絵は日本の古い説話や風俗絵に取材するものが多く、影絵の趣向とも相まって、古雅で幻想的な雰囲気を漂わせる。展示箇所は『小柴垣草子』の一場面を円山応震が描いたもの。(川平)

《参考文献》中野三敏「亀齢惑溺」(『江戸狂者傳』所収、中央公論新社、2007年)


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第四部 春本の雅俗 展示リスト

  • 『素女妙論』 編者未詳  1巻1冊 嘉靖45年(1566)〈推定〉序、明治時代写  雅俗文庫/近代a/ソジ
  • 『春窓秘辞』 淇澳堂主人編  1帖(折本)  近世後期刊  雅俗文庫/春本a/シユ
  • 『華月帖』 亀齢軒斗遠編  1帖(折本)  天保7年(1836)刊  雅俗文庫/春本a/カゲ
  • 『絵本笑上戸』 喜多川歌麿画  3巻3冊  近世中期刊  雅俗文庫/春本a/エホ
  • 『色つばな』 〔石川豊信〕画  1巻1冊存  近世中期刊  雅俗文庫/春本a/イロ
  • 『開巻斂咲』 著者不明  1巻1冊  〔宝暦7年〈1757〉〕刊  雅俗文庫/春本a/カイ
  • 『〔春画〕』 九霞山樵(池大雅)著  1帖(折本)  年次不明・刊  雅俗文庫/春本a/シユ
  • 『〈兼好法師/志道軒/芝居狂言〉夢物語講釈』 〔奥村政信〕著  1巻1冊存 年次不明・刊   雅俗文庫/春本a/ケン
  • 『梅好閨の伝染香』 紀行安作、又平(歌川国貞)画  1巻1冊存 天保12年(1841)刊  雅俗文庫/春本a/ウメ
  • 『春臠拆甲』 活活庵主人著  1巻1冊  明和5年(1768)跋・刊  雅俗文庫/春本a/シユ

第五部 写本随筆の愉しみ

 「随筆」といえば、現代でいうエッセイが思い浮かぶだろう。古典でいえば、『枕草子』『徒然草』といった名前が挙がるに違いない。それらは文芸的な随筆と言えるだろうが、江戸時代に随筆と呼ばれたものの大半は、古今の文献から文章や絵を引用して事物の由来を考証したり、さまざまな人物の評判を書き留めたりといった、学術性・記録性の高いものである。いわば江戸時代の雑知の集積といってよい。印刷されずに残された写本随筆には、とりわけ私的なものが多く、著者の嗜好・性癖をのぞき見るような愉しみがある。

愚園藂筆(ぐえんそうひつ)

愚園藂筆
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服部宜(大方)著(自筆)
縦 22.9 × 横 16.2cm 4巻4冊存 近世後期成・写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/随筆d/グエ)


 「怪異」「文字」など項目をたてて様々な故事や逸話を記するもの。全5巻のうち4巻が現存。著者服部大方は近世後期の儒学者。明治時代の文学者・ジャーナリストの服部撫松はこの人の孫。本書は大方の自筆稿本で、貼り込み・修正・加筆など推敲の跡が夥しい。なお、国書データベースでは、雅俗文庫にしか所蔵が確認されない。展示箇所は「再生」というくだりで、再びこの世に生まれてくる人々の故事について述べた部分。(賈)


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老のみきき

老のみきき
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藤井重定編
縦 26.6 × 横 18.5cm 2巻2冊 安政5年(1858)序・写
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/随筆d/オイ)


 江戸の文人、和漢の学問に関する見解、各地での見聞など、様々な事項について述べたもの。三村竹清旧蔵本。序に「父のたまものなりけりとおもへば、しずかに昔のしのばれて泪とともに端書することになむ」とある所から、本書は藤原重定が父の著作を整理・浄書したものだと推測されるが、具体的な情報は今後の調査を待つ。展示箇所は寛政10年6月27日に下鴨神社家町で化物に会ったという記事で、挿絵に化物の様子が描かれている。(賈)

 

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第五部 写本随筆の愉しみ 展示リスト

  • 『述斎偶筆』 林述斎著(自筆)  1巻1冊  近世後期成・写  雅俗文庫/随筆d/ジュ
  • 『萩原随筆』 萩原宗固著  6巻3冊  近世後期成・写  雅俗文庫/随筆d/ハギ
  • 『愚園藂筆』 服部宜(大方)著(自筆)  4巻4冊存  近世後期成・写  雅俗文庫/随筆d/グエ
  • 『安津満能春』 成島司直著、倉地言行写  1巻1冊  文政10年(1827)写  雅俗文庫/随筆d/アズ
  • 『老のみきき』 藤井重定編  2巻2冊  安政5年(1858)序・写  雅俗文庫/随筆d/オイ
  • 『雑続無名抄』本間游清著(自筆)  1巻1冊  近世後期成・写  雅俗文庫/随筆d/ザツ
  • 『蒼海一滴集』 片山国倀著(自筆)  5巻10冊  文化13年(1816)跋・写  雅俗文庫/随筆d/ソウ
  • 『槃游余録次編』 吉田桃樹著(自筆)  1巻1冊  寛政元年(1789)跋・写  雅俗文庫/随筆d/ハン
  • 『取熊雑話』 東郊散人著  1巻1冊  明和3年(1766)成・写  雅俗文庫/随筆d/シュ
  • 『梧窓漫筆拾遺』 大田錦城著  1巻1冊  近世後期成・写  雅俗文庫/随筆d/ゴソ

第六部 江戸のハウツー本

 儒学や仏教といった学問、お茶や活け花といった芸道ほど体系的な「道」ではなくとも、日常生活のくまぐまに、その「道」の達人がいるものである。ここに挙げるのは、運歩法(ウォーキング)、記憶術、宝くじの当て方、博打の必勝法、変死体の取り扱い方、突然の来客への対応方、卓袱料理のレシピ、美人に見える化粧法、などなどで、微に入り細をうがった、さまざまな「道」についての指南が書かれている。文学でも歴史でも思想でもない、こういった曖昧な領域の書物は、これまで学問の対象としてほとんど取り上げられていない。中野氏は、こうした「雑本」をとりわけ好んで収集した。

物覚秘伝(ものおぼえのひでん)

物覚秘伝
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青水先生口授、藤逸章校
縦 22.4 × 横 16.0cm 1巻1冊 明和8年(1771)刊
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/雑b/モノ)


 記憶術についての口伝を記した本。本文には、この方法を習得すれば「およそ世間にあらゆること」を「魯鈍の小児」でも記憶することができると記されている。翌年には後編も出版される人気ぶりで、記憶術に関する類似の書がその後も数多く出版された。展示箇所では、人間の体の部位(目、口、手足など)を利用して、それらと物とを対応させて記憶することで、最大30個の事物を覚えることができると示している。(野尻)

《参考文献》足達薫「『源氏物語』 六十四貼の名目を暗記せんとせば―『物覚秘伝』 と西洋世界の記憶術」(『人文社会科学論叢』第二号、弘前大学人文社会科学部、2017年)、中野三敏「続、和本の海へ②―物覚え、物忘れ」(『書物学』第3巻、勉誠出版、2014年)


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臨時客応接(りんじきゃくあしらい)

臨時客応接
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和田定信著
縦 22.8 × 横 15.9cm 1巻1冊 文政2年(1819)序・刊
九州大学中央図書館所蔵(雅俗文庫/雑z/リン)


 急な来客のもてなし方について、 100ヶ条にわたり細かく説明している。取次や帰り支度の心得にとどまらず、相応しい酒・食事の献立や給仕の作法などが詳細に記されており、細やかな心遣いが随所に表れている。展示箇所では、茶漬けの献立について四季の部に分けて記されているうちの、春の部が示されている。(野尻)

《参考文献》中野三敏『和本の海へ―豊饒の江戸文化―』(角川選書436、2009年)


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第六部 江戸のハウツー本 展示リスト




執筆者一覧

川平 敏文 九州大学大学院人文科学研究院教授
陳  笑薇 九州大学大学院人文科学府専門研究員
王  自強 九州大学大学院人文科学府博士後期課程三年
賈  思敏 九州大学大学院人文科学府博士後期課程一年
野尻 萌果 九州大学大学院人文科学府修士課程二年



展示会情報(5/10~6/29)

本学伊都キャンパス(福岡県福岡市西区元岡)のフジイギャラリーでは雅俗文庫から選りすぐりの貴重書およそ70点を展示しています。ぜひ会場まで足をお運びください。詳細はこちら >>


お問い合わせ

九州大学附属図書館利用者サービス課サービス企画係
Tel:092-802-2481
E -Mail:touservice@jimu.kyushu-u.ac.jp




謝辞

今回の展示会にあたりましては、川平敏文教授(九州大学大学院人文科学研究院)に多大なご協力をいただきました。また、九州大学デジタル資料整備事業による皆様からのご支援を今回の経費に充てさせていただきました。心よりお礼を申し上げます。今後とも引き続きご支援をよろしくお願いします。


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