第6章 ヴェサリウス

本でめぐる、医学の世界


アンドレアス・ヴェサリウス (Andreas Vesalius / 1514 - 1564 )

解剖学の扉を開き、近代医学の礎を築いた創始者

アンドレアス・ヴェサリウスは、16世紀ヨーロッパのルネサンス期に活躍したブリュッセル出身の解剖学者・医師で、近代解剖学の創始者と称される人物です。

主著である『人間の身体の構造』(De humani corporis fabrica)(1543)により、ガレノス医学に基づく誤った人体観を刷新し、科学的観察に基づく実証的解剖学の扉を開きました。

当時としては画期的だった、実際の人体解剖に基づく精緻な観察と記録を、精巧な木版画とともに出版し、解剖学の知見を広く伝えることに成功しました。この書は医学書にとどまらず、科学と芸術の融合としても高く評価されています。

視覚と触覚による直接観察を重視する解剖学的手法は、実践的な人体理解を促し、近代医学教育の礎を築きました。



1. Andreae Vesalii Bruxellensis, De humani corporis fabrica libri septem(人間の身体の構造)

Andreas Vesalius 1555年 スイス
九州大学医学図書館所蔵(WZ 240/V 575/1555) 【 精細画像

fabrica


 ヴェサリウスはパリ大学医学部で学んだ後、イタリアのパドヴァ大学で外科および解剖学の講師を務め、自身の代表作『人間の身体の構造』(ラテン語題:De humani corporis fabrica)を出版しました。
 本書は、詳細な医学的記述に加え、骨格人や筋肉人がさまざまなポーズをとる精緻な図版を特徴とし、その革新性は当時として前代未聞のものでした。解剖学における画期的成果であると同時に、図像表現は美術分野にも大きな影響を与えました。
 図版の木版画制作者については諸説があり、ルネサンス期の巨匠ティツィアーノ本人、あるいはその工房で活動していたヤン・ステファン・ファン・カルカール、ドメニコ・カンパニョーラらの名が挙げられています。



2. A. Vesalii en Valuerda Anatomie : ofte af-beeldinghe van de deelen des menschelijcken lichaems, en derselver verklaringhe : met een aenwijsinghe om het selve te ontleden, volgens de leeringe Galleni, Vesalii, Fallopii en Arantii (ヴェザリウスおよびワルエルダの解剖学)

A. Vesalii en Valuerda 1647年 オランダ
九州大学医学図書館所蔵(WZ 250/V 575/[1647]) 【 精細画像

A. Vesalii en Valuerda Anatomie


 ワルエルダはスペイン出身の医師で、16世紀中頃にヴェサリウスが確立した近代解剖学を、スペインで初めて紹介・普及させた人物です。
 本書の原典は、1556年にローマで刊行されたスペイン語の著作『Historia de la composición del cuerpo humano, escrita por Juan de Valverde de Amusco』です。
ヴェサリウスの〈ファブリカ〉を底本としつつ、独自の加筆や編集を加えた再構成版で、その後、イタリア語、ラテン語、オランダ語に訳されました。

 本書はこのオランダ語版を、ワルエルダの死から数十年後に改訂・改題したものです。




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