第4章 シーボルト

本でめぐる、医学の世界


フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(Philipp Franz von Siebold / 1796 - 1866)

近代日本と西洋の知の架け橋となった医師・博物学者

シーボルトは、19世紀に来日したドイツ出身の医師・博物学者で、日本とヨーロッパの学問・文化の交流を深めた先駆者です。

1823年、オランダ商館の医員として長崎・出島に赴任したシーボルトは、出島の外に「鳴滝塾」を開き、日本人医師たちに西洋医学や博物学を教えました。門下生の多くは、のちに幕府や明治政府で活躍し、日本の医学の近代化に大きく貢献しました。

医療の傍ら、日本に関する詳細な科学調査を行いました。しかし、1828年に帰国する直前、海外への持ち出しを禁止されていた地図などを船に積んでいたことが発覚。この「シーボルト事件」により国外追放されました。

帰国後は、日本各地で収集した動植物、鉱物、工芸品などの資料や、詳細な記録をもとに、『Fauna Japonica(日本動物誌)』『Flora Japonica(日本植物誌)』『Nippon』などを著し、これらは西洋における日本理解の重要な資料となりました。

また、1859年には再来日を果たし、幕府顧問を務めました。
彼の業績は日欧の学術交流の出発点として高く評価されています。



1. Nippon(日本)

Philipp Franz von Siebold 1832年 オランダ
九州大学医学図書館所蔵 【 詳細情報

Nippon


 『Nippon』は、日本の地理、歴史、言語、宗教、美術、政治、経済などを紹介した本で、1832年から1851年にかけて、全20分冊が刊行されました。
 シーボルトが日本滞在中に収集した資料や観察に基づき、当時ヨーロッパではほとんど知られていなかった日本の姿が体系的に紹介されています。

 刊行当時は、製本前の分冊形式で配布され、購入者が自ら製本所に持ち込むのが一般的でした。 医学図書館所蔵本は初版本かつ未製本で、出版当時の形をそのまま伝える、世界的にも数少ない極めて貴重な例であると思われます。



2. Fauna Japonica(日本動物誌)

Philipp Franz von Siebold 1850年 オランダ
九州大学医学図書館所蔵(QL 51/S 571/v.1/1850) 【 詳細情報

Fauna Japonica


 『Fauna Japonica』は、日本列島に生息する動物群(ファウナ)を体系的に記録・分類した図鑑であり、シーボルトが日本で収集した標本や観察記録をもとに、1833年から1850年にかけて刊行されました。
本書には、哺乳類・鳥類・魚類・昆虫などが、精緻な図版と学術的な解説とともに収められており、日本の動物を西洋に初めて本格的に紹介した文献として、高い学術的価値を持っています。



3. Flora Japonica(日本植物誌)

Philipp Franz von Siebold 1835年 オランダ
九州大学医学図書館所蔵(QK 101/S 571/v.1/1835) 【 詳細情報

Flora Japonica


 『Flora Japonica』は、日本各地で収集された植物標本と、川原慶賀ら日本人絵師による精緻な下絵をもとに刊行された植物図譜(フローラ)です。
 シーボルトが日本から持ち帰った標本や資料を基に、ドイツの植物学者ツッカリーニが分類を担当し、1835年からシーボルト没後の1870年まで長期間にわたり刊行されました。 本書は、日本の固有種や生態を西洋の植物分類体系に沿って詳しく紹介し、日本植物学研究の基礎を築いた重要な資料です。





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