第2章 華岡青洲

本でめぐる、医学の世界


華岡青洲(はなおか せいしゅう / 1760 - 1835)

世界初の全身麻酔による乳癌手術を成し遂げた外科医

華岡青洲は江戸時代後期に活躍した医師で、全身麻酔を使用した乳癌摘出手術を世界で初めて成功させたことで国際的に高く評価されています。

紀伊国(現在の和歌山県)に生まれた青洲は、オランダ流外科と漢方医学の双方に精通し、薬理学的知見を深めつつ外科技術の研鑽にも努めました。

患者の苦痛を和らげ高度な外科治療をするために、麻酔薬の製剤に着手し、長きにわたる試行錯誤の末「通仙散(つうせんさん)」を開発しました。これは、チョウセンアサガオ(ダツラ)などの有毒植物成分を調合した複合麻酔薬で、意識消失と鎮痛効果をもたらすものでした。

また、私塾「春林軒」を開設し、外科教育の体系化と実験医学の導入を推進。全国から門弟を集め、臨床実践と学術研究の融合を図ることで、日本の近代医学の発展に大きく寄与しました。



1. 青洲先生醫譚(せいしゅうせんせいいだん)

[書写者不明] , [書写年不明]
九州大学医学図書館所蔵(和漢古医書/セ-26) 【 精細画像

青洲先生醫譚


 『青洲先生醫譚』は華岡青洲の医術と人物像を、後年にまとめた医譚集です。青洲の死後、その業績を後世に伝える目的で編まれました。
 本書には、診療の逸話や医師としての哲学が記されており、江戸時代の臨床現場や当時の医療倫理を知るうえで、貴重な資料といえるでしょう。



2. 華岡青洲先生手術録(はなおかせいしゅうせんせいしゅじゅつろく)

大野玄通筆記 1841年(天保12年)[写]
九州大学医学図書館所蔵(耳鼻科図書/O 67) 【 詳細情報

青洲先生醫譚


 本書は二冊から成る手書きの手術録で、門人による序文、乳がん手術の患者名簿「乳岩治験姓名」、さらに患者の症状や治療法を描いた絵で構成されています。
 「乳岩治験姓名」には、東は安房国から西は周防国まで、各地から患者が訪れていたことが記されており、青洲の医術が広範に知られていたことがうかがえます。
絵には乳がん手術のほか、東洋医学に基づく接骨術も描かれており、青洲が和漢蘭折衷(わかんらんせっちゅう)の医方を実践していたことを示しています。




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