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「麻生家文書」とその世界
「「麻生家文書」とその世界」の試み」ーはじめに
「麻生家文書」は、福岡藩の庄屋で、筑豊御三家の一つとして石炭産業をけん引した麻生家と、同家が経営した関連会社に由来する膨大な史料群である。年代は近世~近現代、量は大型文書箱に1500箱以上、史料数は数万点に及ぶ。九州大学による調査は1974年にはじまり、その後、部分的な目録の公刊や『麻生太吉日記』出版など、調査・研究の実績を積み重ねてきた。
2020年8月、この「麻生家文書」の整理・研究を大幅に加速させるため、九州大学附属図書館付設記録資料館は、株式会社麻生からの寄附金を活用し、麻生家文書研究部門を新設した。本部門では、「麻生家文書」の目録データベースの公開や重要史料の電子化公開により研究基盤を創出し、「麻生家文書」を核とする石炭産業をめぐる包括的研究の推進を目指している。また、その成果を広く発信することも部門に課せられた重要な任務の一つである。
そこで、本部門では、2022年10月の「麻生家文書」目録データベース公開を機とし、展示会を開くことにした。そもそも、九大に寄託された「麻生家文書」とはいったいどのような史料群なのか? そしてそこにはどのような史料があるのか? といった声に対して実際の史料をもとに応答する展示でもある。もちろん、部門設置3年度目を迎えた現在も史料整理は日々進められている最中であり、本展示のみでその全てを余すことなく紹介することは難しい。そこで、担当教員とともに史料整理を行う学生たちの知見も借りつつ、これまで整理された「麻生家文書」の中から特徴的な史料を紹介することで、これまでの成果の一端を示すこととしたい。(原口 大輔)
凡例
- 本展示は「「麻生家文書」とその世界」の電子展覧会である。本展示をもとに九州大学附属図書館中央図書館3階エントランスで小展示を開催している(2022年12月8日~2022年12月25日)。
- 本展示は、主催・九州大学附属図書館付設記録資料館のもと、原口大輔(附属図書館付設記録資料館麻生家文書部門講師)が企画した。
- 本展示における出陳史料の選定・史料翻刻・解説の執筆は、原口のほか、三浦颯太(九州大学大学院人文科学府)、井上修平、進竜一郎、中村麻鈴、橋本彩華、田代恵悟、山下拓真、北川雄一朗(九州大学文学部)が分担し、原口が編集した。
- 今日では一部不適切と思われる表現がある可能性があるが、歴史的な史料という性質上、そのまま表記した。
- 史料の翻刻については、適宜句読点を施し、漢字は原則として新字体を用い、旧字体は最小限にとどめた。
第1章 麻生太吉と麻生家・麻生商店の文書管理
第1章では、「麻生家文書」の中核的な史料の紹介も兼ねて、麻生家がどのような文書管理を行ってきたのかをみていきたい。麻生家の文書管理は、明治中期に「家法」と「家掟」(のちに「麻生商店店則」)によって定められた。とりわけ、「家掟」には、麻生本家・麻生商店ともども日々大量に作られる書類の編綴方法や、業務日誌をはじめとする記録管理の細かな規定が設けられた。また、麻生太吉(1857~1933)自身は1906年(明治39)より日記帳に日記をつけ始めたが、それ以外にも重要な案件に関するメモや書類、書簡の手控えなどの記録を「肝要記憶廉附」や「備忘録」として残していた。このような「麻生家文書」の残存状況は、太吉を中心とする麻生家・麻生商店が、その当時から記録を適切な形に整理してのちに参照できるように深い注意を払っていたことをうかがわせる。(原口 大輔)
1. 家法 〔明治中期〕 「麻生家文書」肝要-16
麻生太吉は1894年(明治27)に忠隈炭鉱を住友に売却し、経営不振を脱却した。その際、住友との接触を通して「住友家法」を入手したとされている。これをモデルに、麻生家の「家法」・「家掟」が制定され、太吉はそれによって家業の安定と発展を図ろうとした。「家法」は全15条。相続、家主の任務・義務、家政、家業・家産の内容、分家・有功者との関係などの原則が示された。(原口 大輔)
2. 家諚 〔明治中期〕 「麻生家文書」肝要-15
麻生家の「家諚」は全49条から構成され、その内容は1)家政に関する根本理念、2)家政運用の基本方針、3)麻生商店の規則に大別された。とりわけ、アーカイブの観点から注目されるのは3)であり、麻生家では家政を整理するために庶務掛・会計掛・用度掛を置き、事務管理や文書管理に関する帳簿編綴の細かい規定を設けた。こんにちの「麻生家文書」に大量の簿冊が残されているのはこの規定があったからであろう。なお、この「家諚」はのちに発展して「麻生商店店則」として運用されることとなる。(原口 大輔)
3. 麻生太吉日記 1915年(大正4)7月22日条 「麻生家文書」当用日記-10
太吉は1906年(明治39)より日記帳に日記を記し始めた。主に博文館の当用日記に墨書で記している。この日、太吉は書類整理について、「吉浦君ノ整理ノ順序打合ヲナス、書類綴リヲ新ニ設ケ手数ヲ用セザル様ナシタリ」と執事の吉浦勝熊とともに打ち合わせを行っている。太吉自身、麻生家・麻生商店の書類整理・管理に強い関心があったことがうかがえる日記の記述である。(原口 大輔)
4. 麻生太吉日記 1916年(大正5)1月21日条 「麻生家文書」当用日記-11
1月21日、麻生商店に出勤した太吉は、「本店出勤、帳簿ノ整理上ニ付打合ヲナス」と帳簿の整理について打ち合わせを行っている。麻生商店は支店・出張所などに洋式会計帳簿による管理を導入し、金銭などの出納を細かく管理していた。(原口 大輔)
5. 肝要記憶廉附 「麻生家文書」な-10
「「麻生家文書」には、日記帳とは別に太吉が重要事項や備忘を記したり、関連する書類を綴った冊子を複数冊確認できる。本史料の中には、「四十五年一月上京ノ節携行書類」として、「備忘録」、「四十年一月備忘録」、「四十年八月廿六日肝要廉附」、「四十年一月肝要廉附帳」、「三十六年一月肝要書類」、「肝要記憶廉附」、「三十年十二月廿三日改正重要書類留」、「四十二年十二月起金銭上関係書類」、「金銭ニ係ル書類」、「書類一纒メ」の10冊が挙げられている。上京時に10冊の冊子を持参することはたやすいことではなく、太吉の記録を参照することに対する強い執念と慎重な姿勢が見てとれる。(原口 大輔)
6. 四十年一月備忘録 〔1907年(明治40)〕 「麻生家文書」な-19
7. 四十年八月廿六日肝要廉附 〔1907年(明治40)〕 「麻生家文書」な-9
8. 四十年一月肝要廉附帳 〔1907年(明治40)8月26日〕 「麻生家文書」な-8
9. 三十年十二月廿三日改正重要書類留 〔1897年(明治30)12月23日〕 「麻生家文書」な-6
5「肝要記憶廉附」で示された冊子の一つ。こちらは証書や契約書などの原本、来簡や発信控などが綴り込まれており、備忘の意味合いが強かった「肝要廉附」とは異なり、業務において重要書類をまとめた冊子として位置づけられていたと思われる。(原口 大輔)
10. 記憶帳 1923年(大正12)12月 「麻生家文書」な-20
11. 本家日誌 「麻生家文書」日誌-4、日誌-5、日誌-6
「家掟」の規定に従い、1894年(明治27)より麻生本家では日誌が作成されるようになった。基本的に麻生家・麻生商店の業務日誌であり、主人(=太吉)や役員の動向、来訪者、家族の生活の様子などが日々記される。また、筆跡から複数人で分担執筆していたようである。当初の2年間は太吉による筆跡も確認でき、発信控や備忘の記録も混在していたが、1896年の日誌より、麻生家・麻生商店の家政日誌としてその性格が徐々に固定されていった。(原口 大輔)
12. 来信簿 「麻生家文書」の-46、の-47
「麻生家文書」には膨大な書簡・葉書・電報が残っており、来簡が1000通を超える年も少なくない。収蔵庫には1892年(明治25)から太吉が死去した1933年(昭和8)まで、年次ごとにまとめられた文書箱が大量にある。そのような書簡を、麻生家では「来信簿」として受付管理しており、日付、差出人、摘要を記録していた。本史料は執事の吉浦勝熊の筆跡であり、家政担当者が開封した書簡も多かったと思われる。一方、摘要に「親展」とのみ書かれた来簡は、文字通り太吉が直接見るように指示があったことをうかがわせる。(原口 大輔)
13. 発信原稿 「麻生家文書」の-43、の-44、の-45
来簡に対応する発信として「発信原稿」、すなわち発信書簡の控えも年ごとにまとめられている。推敲の跡も見られるので、下書き後に清書したと考えられる。ただし、あくまで手控えなので、一言一句そのまま書簡が送られたのか、という点には注意が必要だろう。(原口 大輔)
14. 金銭出納 「麻生家文書」の-2、の-3
日々の収支を正確に把握する点も「家掟」で定められた。「金銭出納」と名付けられた冊子には、麻生家の日々の出費が金額と摘要とともに記され、項目分けも行われた。摘要が詳細に記されている点も特徴であろう。(原口 大輔)
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