九州大学附属図書館企画展
「東西の古医書に見られる身体」−九州大学の資料から−」
平成10年5月11日ー17日

 

(VI)固定観念にとらわれていた学問

いわゆる「固定観念」からの逸脱はどこの社会や集団においても、同情に始まり拒否、攻撃、排除といったさまざまな反応を呼び起こす。ヨーロッパでも学問と単なるセンセーションの区別ができない医学者がおり、特に17−19世紀には、「珍しい」事象の「観察」を紹介する医書が数多く出版された。


「シャム双生児」の骨格
Walter, QS W 232

ワルター『解剖学的観察』ベルリン、1775年。Johann Gottlieb Walter: Observationes Anatomicae [...] Berolini, Apud Gottlieb Augustum Lange, 1775.
【九州大学附属図書館医学部分館蔵】




胎児の奇形

ベーマー『珍しい解剖学的観察』ハレ、1756年。Philipp Adolf Boehmer: Observationum anatomicarum rariorum fasciculus alter notabilia circa uterum humanum continens cum figuris ad vivum expressis. Halae Magdeburgicae: Apud Joannem Justinum Gebaverum, 1756. De Monstro Humano Biocorporeo, Tab. 4, p.57.
【九州大学附属図書館医学部分館蔵】

Boehmer



医学と人種論

国家主義や植民地政策の時代に、民族や人種、国家が次第に強調され、ヨーロッパの解剖学でもこの現象を「科学的に」掌握しようという試みが目立ち始める。サンディフォールはトルコ人やブッシュマン、ホッテントット、ユダヤ人、中国人、ウェールズ人、エチオピア人などの頭蓋骨を並べて計測し、その特徴的な差違を示そうとした。

ライデンのシーボルト・コレクションから日本人の頭蓋骨("Cranium Japonensis"
Sandifort

ジェラール・サンディフォール『諸民族の頭蓋骨の図表』ライデン1838年。Gerard Sandifort: Tabulae Craniorum Diversarum Nationum. Delineavit et Descripsit Gerardus Sandifort. Lugduni Batavorum. Apud S. et J. Luchtmans, 1838.
【九州大学附属図書館医学部分館蔵】

国家社会主義時代の学問で、人種学をドイツの大学で学問として備え、アーリア人の優越性を証明し、いわゆる『生きる価値のない生命』を根絶しようとした。ドイツ人のSS親衛隊の医師たちは強制収容所でユダヤ人や政治犯、同性愛者、シンティとロマ等に対し生体実験を行い、夥しい数の標本を作った。





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